最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)727号 判決 1954年2月02日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人の上告理由は末尾添附別紙記載のとおりである。
案ずるに原審が民法第六一六条その他判文挙示の規定により一般的に賃借人は特約なき限り現状恢復の義務なきものとしたのは法律の解釈を誤つた嫌なきを得ない。賃借人は賃貸人の承諾なくして賃借家屋の改造をした様な場合には一般的には現状恢復の義務あるものというべきである。しかし原審の認定した事実によると本件賃貸借においてはその目的物を工場に改造することが契約の内容となつて居たものというべく、かかる場合には特約なき限り賃借人は原状恢復の義務なきものと解するを相当とする。されば原審が被上告人に原状恢復の義務なしとしたことは本件賃貸借に関する限り結局正当であり、前記法律の誤解は主文に影響なきものといわなければならない。そしてこのことは本件建物の改築を上告人又は被上告人の何れが現実になしたかによつて左右される処はない。それ故論旨第一点所論の点について原審が上告人の認めなかつた事実につき「争なし」と判示した違法ありとするも、これ亦判決主文に影響なきものであり、此点に関する論旨も結局理由なきに帰する。その他の論旨は最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律所定の上告理由に該当しないし又同法にいう法令の解釈に関する重要な主張を含むものでもない。
よつて上告を理由なきものとし民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)